和樂編集部日記 / 本誌編集長アンドリュー橋本の内覧会狂想曲

WARAKU EDITOR'S DIARY

眩い! 兜率天(とそつてん)ワールドへ!

3月に入って、東大寺ではお水取りが始まりました。大阪生まれのアンドリューにとっては、お水取りのニュースを見ると、「ああ、長かった冬も終わって、暖かい春になるんだ」と子供の時から思っていました。

お水取り、修二会(しゅにえ)といえば、もうひとつ昔から気になっていたのが「兜率天(とそつてん)」という言葉。お水取りは兜率天の世界を写した行法であるとか、千年以上昔にこのお水取りを始めた実忠(じっちゅう)という天平時代の僧が、南山城の笠置山近くの洞窟に入ってたどり着いた光り輝く世界が兜率天だとか、兜率天の一昼夜は人間界の400年分にあたるとか、そこでは弥勒菩薩が修行をしているとか・・・。そんな話を読むたびに、「兜率天とは何だろう?」「兜率天とはどんなところだろう?」と思い続けてきました。

が、人生54年目のお水取りの時期に、奇しくも、この「兜率天」を描いた絵画に出合い、大変感動しました!

前置きが長―――――――――――くなってしまいましたが、2月27日から東京南青山の根津美術館で開催中の「ほとけの教え、とこしえに。仏教絵画名品展」に出展されている「兜率天曼荼羅」には、大変感動しました。

南北朝時代に制作された実に大きな作品ですが、何よりその清涼感溢れる鮮やかな緑で描かれたこの大作を見ると、これが南北朝時代に描かれたとは信じられないほどの、モダンさ、鮮やかさです。細かな描き込みを、近くに寄ってじっくり時間をかけてみたい作品です。

仏教絵画にはめずらしい西洋絵画のような美しい色彩。そして、中央近くに描かれたお堂から放射状に伸びる光のビーム! お堂の二階からも光が溢れる状況が金を使って見事に描かれており、「ああ、実忠というお坊さんがみた光の世界って、こういうことなの」と思いました。

この絵は何をおいても必見です。

さて、今回の展覧会では、様々な仏教絵画の美しさに触れられます。「仏教絵画って、少し辛気くさい気がして・・・」と思っている方がいらっしゃったら、是非、今回の展覧会に行ってください。その先入観がすっかり覆ります。かくいうアンドリューも「仏像は好きだけど、仏教絵画はちょっと・・・」と思っていたのですが、何を何を・・・。実にグラフィカルな作品や、モダンアートのような作品に驚かされます。

そこでアンドリューが感動した3作品を紹介します。

まずは『千体仏図』(平安時代、常盤山文庫蔵)。絹本着色の軸の絵ですが、一面に小さな仏様が無数に描かれています。これはまったく、ウォーホルの世界みたい! めちゃくちゃモダンです。昔「CGステレオグラム」という、同じような絵柄のものをジ――ッと見つめ続けるとそこに立体物が浮き上がって見えてくるという本が話題になりましたが、これなど、その立体視ができるのではないかと思うような、グラフィカルな作品です。文句なく楽しい!

続いて同じく常盤山文庫蔵の作品で『山越(やまごし)阿弥陀図』(絹本着色  室町時代)。山の上ににょっきり現れた大きな大きな阿弥陀様に、正直ぶったまげます。このデザインセンスには完全脱帽です。

3番目はこれまた、常盤山文庫蔵の『釈迦三尊十六羅漢像』(重要美術品 19幅 絹本着色 鎌倉時代)。十六羅漢像は、数多の絵師たちが描いていますが、この作品では正面の釈迦三尊像(釈迦如来、普賢菩薩、文殊菩薩)を囲うように、両側に8幅ずつの羅漢像が掲げられています。このように19幅が完全な形で残っているのは、大変貴重なことなのだそうです。

今回は特に、他美術館から貸し出された作品に注目してご報告しましたが、もちろん根津美術館といえば、仏教絵画の名作、貴重作品を多く所蔵していることで有名ですので、そちらは当然見逃せません。

根津美術館が誇る、『大日如来像』(絹本着色 平安時代)、『法相(ほっそう)曼荼羅』(絹本着色 鎌倉時代)など、計5点の重要文化財の絵画も出展されています。『当麻(たいま)曼荼羅』(絹本着色 室町時代)、『釈迦霊山説法図(神護寺経 見返し絵)』(紺紙金字)など、仏教絵画の歴史を学べる貴重な作品をじっくり鑑賞したいものです。

仏教の世界では、如来というのは修行を終え、人々を救い導いてくれる存在だといわれています。一方、菩薩は、修行途中の身で人々とともにありつつ教え導く存在。

さらには、56億7千万年後にこの世に現れて人々を救済するといわれる弥勒菩薩のことや、密教における大日如来の意味。両界(りょうがい)曼荼羅のそれぞれ「金剛界曼荼羅」と「胎蔵界(たいぞうかい)曼荼羅」に描かれた大日如来の姿の違い・・・。

そして、日本的な神仏習合の思想の中で生まれた仏教絵画の特徴・・・等々、今回の展覧会をみ、解説を読む中で仏教の教えに、簡単ではありますが触れられるのも、興味深いところでした。

会期は3月31日まで。春となり風温むこの季節に、美しい仏教絵画をゆったりとした気持ちで愛でながら、穏やかな気持ちになるのはなんともいえない幸福感です。

根津美術館自慢のお庭には梅も咲いています。春を呼ぶ、仏教絵画の展覧会、是非とも足を運ばれてはいかがでしょうか?

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