和樂編集部日記 / セバスチャン高木の日本のことは全部マンガが教えてくれた

WARAKU EDITOR'S DIARY

大人気漫画家が挑む上杉謙信女性説

拙ブログの更新を首を長ーくしてお待ちいただいている
全国4人くらいの方々!
たいへんお待たせしました。

実はこのひと月というもの、
来る日も来る日もどの漫画を取り上げるか悩みに悩み抜いて、
ろくに寝ることもできない日が続いておりました。
そのため更新がこんなに遅くなってしまいました!
これも漫画を愛するあまりのこととお許しください。

で、いきなりですが、
今回紹介する漫画は東村アキコの『雪花の虎』です。

東村アキコと言えば、
育児エッセイ漫画(wikiのパクリです)の『ママはテンパリスト』で大ブレイクし、
『海月姫』『ひまわりっ』『メロポンだし!』『東京タラレバ娘』など、
男性誌、女性誌をまたにかけて大活躍中の超売れっ子漫画家。

さらには自伝的漫画である『かくかくしかじか』で
2015年のマンガ大賞を受賞したことは記憶に新しいところです。
かくいう私も『ひまわりっ』の何とも言えないギャグセンスで虜となり、
以降出るマンガをすべて購入しているという
なんともナイスな上顧客となっています。

彼女のマンガは、
秀逸なギャグ、そこにちりばめられた冷静な観察眼、
そして己をさらし出すことを恐れない作家性、
それらが生み出す三位一体の魅力にあふれています。

その魅力は『かくかくしかじか』で完全に昇華し、
私、東京メトロ半蔵門線の中で読み出したため、
渋谷で降りるはずが中央林間まで乗り越し、
しかも齢45にして、
電車の中で不覚にも涙をぽろぽろ流す
気持ちの悪い中年親父の醜態をさらしてしまいました。
(みなさん電車の中でのマンガ読みは注意ですよ!)

その東村アキコの新作、それが「雪花の虎」です。
で、このマンガのテーマはというと!なんと!
(いや、タイトルに書いてしまったので「なんと!」でも
なんでもないのですが、、、、)
上杉謙信女性説なんです。

戦国時代、越後の龍の異名を取り、
上洛を目指すライバル武田信玄と闘いを繰り返し、
後に天下人となった織田信長がその力を恐れるあまり、
貢ぎ物まで贈っていたという軍神上杉謙信。

数々のスターを生んだ戦国武将の中でも
一、二の人気(たぶん)を誇る上杉謙信ですが、
その素顔と生涯は驚くほど謎に包まれています。

自分の子孫を残すことに文字通り心血をそそいだ
他の戦国武将と異なり、上杉謙信が妻をめとり、
子を残したという記録は残っておらず、
子はすべて養子であったと言います。

このことから謙信は、
女犯を罪とする信仰心を篤く持っていたのではないか?とか、
男しか愛せなかったのではないか?とか様々な憶測を呼び、
その極めつけとも言うべき説が
謙信って女だったんじゃない?というものなんです。

東村アキコはおそらく、
漫画家独特の嗅覚をもってその説に飛びつきました。
そして、謙信が幼くして預けられた新潟県上越市の禅寺林泉寺を取材して
「ねぇ、謙信って本当に女だったんだよ」
とぴんときてしまったんです、きっと。

そして、そもそも日本の歴史の授業をまともに聞いたことがなく、
戦国武将と言えば、一世を風靡したゲーム「信長の野望」に
熱中したのが唯一の体験という東村アキコですから、
歴史アレルギーの読者に対するケアも忘れてはいません。
(そもそもそんな彼女がなぜ歴史マンガを描こうと思ったのかは
上杉謙信の生涯と同じくらい謎に満ちていますが)

多くの歴史マンガがそうであるように「雪花の虎」も
スタートは戦国時代の時代考証からはじまっています。
だってこの考証がなければ、
読者と物語の前提条件が共有できませんよね。

ですが、多くの読者がこのスタート時の時代考証を嫌って、
「もうこんなマンガ読むのやーめた!」と言って、
歴史マンガから去って行っているのも事実なんです。

そこで東村アキコは何をしたか?
なんと、ページを上下に分け、
上半分で当時の城主が女性であってもおかしくないという時代考証を
下半分で自らが登場し
「歴史が嫌いなら上から半分は読まずに下だけ読んでね」と
読者を誘導する手法をとったのです。

いやぁ、これは読者の取りこぼしを防ぐ見事な手法ですね。
おそらく彼女は商社の営業マンになってたら、
今頃南米統括の社長くらいにはなってましたよ!
和樂も見習わなくちゃ!!!

で、話は変わるのですが、
和樂編集長のアンドリュー橋本にまつわるこんなエピソードがあります。

あまりに間違ったルビをふるアンドリューの性癖に辟易した私は、
「アンドリュー間違ったルビふるのやめてくださいよ」と懇願したのです。
すると、アンドリューはこう言い放ちました。
「セバスチャンよ、読者は読み方を間違えるより漢字を読めないストレスのほうが大きいんだよ」

言われた時は「何を言ってんだこの人は」と思ったものですが、
この東村の手法を見た今ならわかります。
「確かに漢字が読めなくてそこで和樂を読むのやめちゃう人いっぱいいるだろうな」と。

話は戻りますが、
『雪花の虎』は東村アキコが挑戦するはじめての歴史マンガです。
ですが、上のエピソードが示すように、
彼女のスタンスはいつもとまったく変わらないように見えます。

上杉謙信女性説という大きなテーマにもかかわらず、
そこにはいつもの東村アキコ節も炸裂し、
その気負いのなさが逆にこのマンガを通常の歴史マンガとは
ひと味もふた味も違った世界へと導いてくれるのではないかという
予感まで持たせてくれるのです。

『雪花の虎』
東村アキコ
1巻発売中
雑誌『ヒバナ』にて連載中
http://hi-bana.com/works001.html

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